フレデリック・ベグベデ『文学の墓場〜20世紀文学の最終目録〜』

読書が捗ってない時はブックガイドに限る。「やべえ、これ読んでない」「あれも読んでない」「これも読んでない」という焦りを誘発するからね。とは言え俺みたいにブックガイドや新書ばかり読んでいると、作品自体は未読なのに作品に関する知識はけっこうある状態になって、ちょいと不健全な読書生活になってしまうが。
そうそう、ネットで大量に文章を読んでいるうちに、速読が身についてきたよ。何が幸いするか分からんね。
本書は1999年に六千人のフランス人の投票によって選ばれた「二〇世紀の名作五〇」を、文芸評論家・小説家のフレデリック・ベグベデが論評したもの。帯に「フランス随一の毒舌作家」と銘打たれているように、彼の語り口は挑発的である。しかしそれは「え?こんな作品がベスト五〇に入るわけ?」という思いを率直に語っているわけであって、凡百のブックガイドとは違った面白さがある。
例えば

激動と革新の一世紀を総括するのにたった五〇冊しか選べないって時に、『風とともに去りぬ』がかけがえのない一冊だとは思えない。これは一九世紀の一冊だ!ヴィクトル・ユーゴー、うむ、そんな感じ。
(P.61)

『風とともに去りぬ』には賛成バージョンと反対バージョンがあって、上記は反対バージョンの方。まあ、こっちが本音なんだろうけど。
または

この民主的ランキングにはどうも腑に落ちないところがあるよね。だって僕なら、サルトルであれば『言葉』(自伝)か『嘔吐』(アントワーヌ・ロカンタンは速すぎたポストモダン的登場人物だ)を選ぶもの。僕にはどうしても、この本に投票した人間全員が『存在と無現象学存在論の試み』を理解したとは思えない。読んだかどうかも怪しいものだ。
(P.150)

彼が不満を表明するのは作品自体にではなく、それを選んだ六千人のフランス人の民意に対してである。このランキングの特徴は、映画化された作品とノーベル文学賞を受賞した作家の作品が多いことである。映像化されるか、権威ある賞を受賞する。多くの人間に支持されるポイントはこの二つってわけで、それはフランスも日本も変わらないのでありました。

文学の墓場―20世紀文学の最終目録

文学の墓場―20世紀文学の最終目録