絲山秋子「沖で待つ」(『文學界 2005年 九月号』)

住宅設備機器メーカーの及川は、同期入社の「太っちゃん」とある約束をした。それは、「先に死んだ方が、相手のパソコンのHDDを破壊する」というもの。しばらくして太っちゃんが先に亡くなり、及川は太っちゃんの家に侵入する。
「死んだらパソコンの中身を見られるんだよな」と、誰もが一度は考えたことがあるのではないだろうか。あのエロ動画を見られたら嫌だなとか、罵詈雑言だらけの日記は見られたくないなとか、くだらない心配だがけっこう重要なことだ。それを素材にして短編を書いたことにまず感心した。
メインのテーマは同期の友情である。

「同期って、不思議だよね」
「え」
「いつ会っても楽しいじゃん」
〜略〜
「楽しいのに不思議と恋愛には発展しねえんだよな」
「するわけないよ。お互いのみっともないとこみんな知ってるんだから」
〜略〜
「だよなあ。冷静に考えたらお前だっていい年なんだけど、お前と会うと大学出たてのテンションになっちゃうよな」
「何も変わらないような気がしちゃうよね」
(P.67)

フリーターの私も「同期っていいね」と思ってしまう。
ラスト近くに「死者はみんな遺族に頼っているのかもしれない」という一文がある。この一文が、何と言うか、強烈な光を放っているように感じる。
絲山さんが受賞してほしいなぁ。


今月末には「絲山秋子特集」の予定。
「特集」と言っても、全単行本を買ってきて読むだけですが…