『日本文学史』小西甚一

『日本文学史』小西甚一
今回は小西甚一『日本文学史』。講談社学術文庫から出ているので手に入れやすそうだ。いつものように要約・引用。
小西甚一の『日本文学史』は、ドナルド・キーン大岡信熊倉功夫らに評価されている。松岡氏はこの本を

スコープが一貫して揺るがず、著者の独自の視点が行きとどき、記述は既存のどんな文学史にもとらわれていない。文章もうまい。

と評している。
著者は日本文芸の骨格を「雅」の文芸、「俗」の文芸、「雅俗」を分けない「俳諧」で説明できるとしている。古代では日本に特有の「俗」が現れ、中世には「雅」が広まり、近世に入って別種の「俗」が登場し、近代に向かってそこに「雅」が引き込まれていった、と時代に割り振ることが出来る。それをやや詳しく見ていくと…

古代ではたとえば、はやくも「個人」があったというのである。ただしその個人は表現者の側になく、表現される側に出た。その表現される個人を、共同思考あるいは共同感情としての歌が追っていく。
また古代、記紀神話は自然を観察せず、擬人法もはなはだ不完全で人格的形像も不鮮明、精神的主体となるとほとんど客観化されていない。ところが、それを「精神と自然を対立的に捉えなかった」と見れば、古代ギリシア以来の西洋が精神と自然のあいだに深い切断をおいたことにくらべて、きわめて特徴的なことだったと言い、それらをふくめて古代日本の文芸は「俗」であると評価するのである。

小西甚一は「structure」と「texture」を見抜く目を持ち、それを的確な言葉に出来た。松岡氏はそのように見ている。
今回は文章が短めでした。故に私は「もうちょい説明がほしい」と思うのですが、まぁ、本書を読めばいいだけの話ですね。