「想定外への逸脱」

朝日新聞夕刊にたまに掲載される、島田雅彦氏の文芸時評。今回は本能のリアリティを伴ったコトバ、読み手に迫ってくるような凄味のあるコトバについて。

予定調和とは「こうであって欲しい」という希望であり、また想定範囲外の現実は見ないという態度に過ぎない。まだ小説が時に人の理解を越える過酷な現実と真っ向から向き合うジャンルであるならば、予定調和よりも破綻や亀裂を求めることにこそ意味がある。

私が小説を読む際、「泣ける」「感動した」「癒される」といったお手軽なカタルシスは求めてない。世界の見え方を一変させて欲しい。価値観を根底から揺さぶって欲しい。私自身を瓦解させて欲しい。映画でも漫画でも同じだ。
ベストセラーになるような「泣ける」小説を否定してるわけじゃないんですよ。私が小説に求めているのは、島田雅彦の言葉で言えば「予定調和からの逸脱」なんです。