大江健三郎『死者の奢り・飼育』

文壇的処女作の「死者の奢り」、芥川賞受賞作の「飼育」を始めとするデビュー当時の6篇を収録。
文体が非常に特徴的で、俺はこの文体を何て言い表せばいいのか思いつかないのだが、文庫本の表紙には「論理的な骨格と動的なうねりを持つ文体」と表現されている。そう言われればそんな気もする。「うねり」は読みながら確かに感じた。
6篇中4篇に米兵が登場し、主人公たちは米兵との距離感を計りあぐねているところがある。異物が混じりこんできた違和感、とでも言えばいいだろうか。戦後の日本が直面していた閉塞感と、大江青年の青年期特有の閉塞感がリンクしているように思えた。結末はどれも後味が悪く、俺のようなひねくれた人間にとってはその後味の悪さが心地いい。
「人間の羊」と「戦いの今日」には、米兵から何をされても黙って耐えている日本人の被害者・傍観者という設定が出てくる。とくに傍観者の描き方は嫌悪感に満ち満ちていて、この後の作品でこのテーマがどのように発展しているのか興味深い。

死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

死者の奢り・飼育 (新潮文庫)