ドナルド・キーン『明治天皇を語る』
ジャパノロジストのドナルド・キーンが、明治天皇はどれだけ偉大だったかを語りつくした本。「明治天皇に感心すべきところはかなりあると思います」とか「当時の皇帝の中で世界一の存在だった」とか、とにかく褒める。ドナルドは当時の「臣民」の生まれ変わりかな?ってくらいに、バランスを欠いている。褒めること自体は全然構わないんだけど、本書は明らかに対象との距離感が適切でない。
内容も物足りない。講演を編集したものだから仕方ないか。同じ著者による『明治天皇(上下)』(各3200円)を読めってことかね。
追記:ジャパノロジストに関する文章をどこかで読んだなとガサゴソしてみたら、あったあった。
そしてキーンは、政治的にはむしろ保守派であって、それが近年の大著『明治天皇』(新潮社)によってひときわ明らかになった。これは、様々な留保を付けながらも全体として明治帝を称揚する作品に他ならない。またキーンは三島、安部や司馬遼太郎のような日本の作家たちとの交流の成果も多いが、天皇否定派である大江健三郎とは没交渉に近いようだ。
小谷野敦「マッカーサーの後継者たち」(『天皇の戦争責任・再考』)
『明治天皇を語る』は『明治天皇』の入門編あるいは補足のような本だから、著者キーンのスタンスとしても同じだろう。『明治天皇を語る』を読んで「あれ?司馬君っぽいぞ」と感じたのも、間違いではなかったらしい。
また『天皇論を読む』(近代日本思想研究会)では、キーンの『明治天皇』を次のように評している。
問題は、何でも天皇の情の深さでくくってしまう分析の手法である。そこには職責としての天皇の立場や戦争をめぐる状況が抜け落ちている。
〜略〜
同様のやり方で、くり返し、人間・明治天皇が描き出されていく。キーンは人間・明治天皇に光を当て、すべてを天皇個人の成熟と徳に還元する。
キーンの『明治天皇』よりも、飛鳥井雅道の『明治大帝』の方が面白そうだ。
- 作者: ドナルドキーン
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/04/10
- メディア: 新書
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