小谷野敦編『恋愛論アンソロジー』

古今東西の小説家・評論家・哲学者による41篇の恋愛論を収録している。口当たりのいい恋愛エッセイの寄せ集めなどではなく、非常に読み応えのある評論や小説が選ばれている。編者は『もてない男』や『恋愛の昭和史』などでお馴染みの小谷野敦氏。数年前、私は救いを求めるように『もてない男』を読んだっけか…
どの文章も密度が濃く非常に面白い。語りだしたらキリがないので、橋本治恋愛論』の引用だけ、長めにさせていただく。

恋愛に関する一番重要なテーゼっていうのが何かって言いますとね、それは「他人を愛させたら勝ち」なんですね。「他人に自分を愛させたら勝ち」「他人を愛してしまったら負け」「他人に愛されてしまったら身の不運」、これですね。恋愛っていうのはいわゆる“愛”っていうのとは違う。もっとエゴイスティックで駆け引き――つまり戦いみたいなもんなんですね。なんか今そこら辺ですごい誤解っていうのがある。恋愛っていうのは、なんか素敵なことで、なんか素敵な人が自分を、ほとんど文句なしに助けてくれることなんじゃないかっていうね。そんなの間違いですね。
―略―
恋愛が戦いで、「他人に愛されちゃったら身の不運」っていうのは、自分のロクでもない妄想に安住しながら、それでも平気で救いをヨソに求めるロクでもない人間のロクでもない妄想にとっつかまったらおしまいっていうことなの。
「他人を愛したら負け」っていうのは、自分の妄想に押さえこまれたら負けっていうこと。「他人に愛させたら勝ち」っていうのは、その他人の中で「好き」って言いたがってる妄想を切り離すことに成功しなければなんにも始まらないってことね。
(P.362〜P.364)

この本を買ったのは2年前。通読したのは今回が初めてだが、買ってからしばらくは暇つぶしにパラパラと拾い読みしていた。その時に一番気に入ったのがこの文章である。久しぶりに読んでみて、この文章が私の恋愛観に絶大なる影響を及ぼしていたことに気づかされた。友人に「他人に自分を愛させたら勝ち」「他人を愛してしまったら負け」なんて訳知り顔で口走ってたかもしれん…