士郎正宗『攻殻機動隊』

ネタバレ気味で。
草薙素子少佐率いる公安9課、通称「攻殻機動隊」の活躍を描いたサイバーパンクSF漫画。公安9課は対テロ、諜報などを主な任務とする特殊部隊である。
舞台は…

企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても
国家や民族が消えてなくなる程
情報化されていない近未来


アジアの一角に横たわる
奇妙な企業集合体国
日本…
(P.1)

この世界ではAI(人工知能)や人型ロボットが実用化され、人体のサイボーグ化も一般的に行われている。また人体にプラグを差し込むことで、ネットと直接繋がることが出来る。光学迷彩フチコマなどの兵器を駆使した戦闘シーンも見応えがあるが、この漫画の最大の見所はサイバースペース上での攻防だろう。
ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』を漫画化したら『攻殻機動隊』になり、一捻り加えて映画化したら『マトリックス』になる、といった感じである。3作とも首の後ろにプラグを差し込み、障壁を突破しながら電脳空間を飛び回り敵と対決する。『ニューロマンサー』のモリイが『攻殻機動隊』では草薙素子として、『マトリックス』ではトリニティとして描かれている。また、素子は最後にネット上のプログラムである「人形使い」と融合したのだが、『ニューロマンサー』においてもAIである「冬寂」(ウィンターミュート)が別のAIとの融合を望んでいたような…読んだのは6年前だから覚えてないや。
こういったハードSFの面白さは、「人とは何か」「現実とは何か」をエンターテイメントとして見せる点にある。技術をとことん突き詰めていくと、人とAI、人とロボットの境界線にたどり着くからである。本作ではプログラムでしかなかった「人形使い」が生命体として目覚め、政治亡命を主張する。それに失敗した「人形使い」は、生命体として種の保存を望む。一方素子は、脳と脊髄以外をサイボーグ化した人間である。つまりこの世界では、脳以外は代替可能となっている。脳で思考することを以って「人」と定義するとしたら、脳は持っていないが脳と同じように思考するプログラムは「人」と違うのだろうか。
何と言っても、1991年にこのような作品を描いたことが驚きである。まったく古さを感じさせない。

攻殻機動隊 (1)    KCデラックス

攻殻機動隊 (1) KCデラックス