吉見義明『従軍慰安婦』

論争中のテーマに対しては、双方の主張をじっくり検討した上で自らのスタンスを決めなくてはならない。もともと従軍慰安婦問題に関する知識をほとんど持ち合わせていない私が、この本1冊のみを恃みとして自分の主張を展開するのは厳しい。と言うわけで、私の意見は保留にするとして、本書をサラッとまとめるに止めたい。*1
この問題の争点は、
1.国家や軍の積極的な関与があったのかどうか
2.慰安婦の徴集が強制的だったのかどうか
3.国家は個人の賠償に応ずるべきかどうか
だと思われる。
著者の吉見義明氏は、内外の公文書や元慰安婦からのヒアリングをもとに執筆している*2。その上で、軍慰安所の設置には陸軍中央の関与があり、その管理・統制は現地の部隊が担当していたと述べている。慰安所を設置する理由は以下の4つ。
1.性病の蔓延を防ぐため
2.占領地の住民に対する強姦事件を防ぐため
3.将兵に一時的な解放感と安らぎを与えるため
4.機密保持・スパイ防止のため
1と2に関しては、ほとんど効果がなかったらしい。1の場合、軍医が定期的に慰安婦の性病検査を行っていたのだが、将兵の性病検査は厳密に行われなかったためである。
慰安婦の徴集方法は、日本人の場合、朝鮮・台湾など植民地の人々の場合、中国・東南アジア・太平洋など占領地の人々の場合で異なっている。
まず日本から。

日本内地から慰安婦を送ろうとすれば、21歳以上で、しかも売春婦の中から集めるほかなかった。警察がそのように制限していたからである。(P.88)

これは日本が「醜業を行わしむる為の婦女売買取締に関する国際協定」「醜業を行わしむる為の婦女売買禁止に関する国際条約」「婦女及児童の売買禁止に関する国際条約」の3つに加入していたためである。しかしこれらの条約には、植民地などでは適用しなくてもいいという抜け道があったため、朝鮮・台湾の慰安婦は「看護婦になる」「炊事・洗濯の仕事がある」と騙された人や*3、誘拐された人が多かった。また占領地での徴集も、暴力的なケース、騙して連れて行ったケース、村の有力者に命じて集めさせたケースなどが多かった。著者はこのように結論付けている。
さて、今後は本書とは異なる立場からなされた主張を見ていく。「現時点でお主はどう思ってるのじゃ!」と言われそうだが、まあ、保留と言ったら保留である。強いて言うなら、この立場↓
内田樹の研究室:従軍慰安婦問題について考えた

従軍慰安婦 (岩波新書)

従軍慰安婦 (岩波新書)

*1:秦郁彦の本や『嫌韓流』もそのうち読みますから。他にオススメなどがあったらヨロシクです。

*2:資料や証言の信頼性は、この本を読んだだけでは判断できない。

*3:P.110