森山公夫『統合失調症』

統合失調症―精神分裂病を解く (ちくま新書)

統合失調症―精神分裂病を解く (ちくま新書)

統合失調症』というタイトル、新書という形式から、私は入門書として期待していた。
しかし、全く入門書ではない。
統合失調症」が一般的にどのように定義されているのか、医療現場でどのような治療が行われているのか、患者の周囲の人々はどう対処したらよいのか、といった基礎を期待していたのだが、本書はそういった基礎を踏まえた上での「応用編」と呼べるものだ。
従来の「分裂病」概念を「脱構築」するために書かれた本である。そのために著者が基盤を置いたのは、「迫害妄想」という症状である。「迫害妄想」とは、「組織に狙われ、監視され、迫害される」と思い込むもの。多くの症例を示しているので、全体的として把握できたと思う。
分裂病」が近代以降どのように研究されてきたかを細かく記しているので、資料としては役に立ちそうだ。しかし、その弊害も多い。基礎を抑えていない私としては、数多くの研究者と学説の登場により混乱した。
あとがきを読んでから買うべきだった。
「わたしの論調はいまの学会の流行からそれているため、」
「ある部分は詳細になりすぎ、ある部分は手薄になっています。またある所では学術的で煩瑣な議論が多すぎます。」
おいおい…
でも「統合失調症」の本ではないと思えば、得るものは多かった。
夏目漱石がどのように精神を患ったかが分析されているし、対人恐怖・妄想・幻覚のメカニズムも詳しく記載されているから。
第1章で「自明性の喪失」って言葉を見て、何となくフィリップ・K・ディックを思い出した。
このような精神医学の書物を読めば読むほど、誰にでも患う可能性があることを実感する。その差は本当に紙一重だ。今日は1時間30分ほどしか寝てない私も、気をつけないと。