塩田明彦『害虫』

火炎瓶のシーンに度肝を抜かれた。
軽快なギターに載せて、宮崎あおいが嬉々とした表情で何かを準備している。徐々にそれが「火炎瓶」であることが分かり始め、いったいこの子は火炎瓶などというアナクロな武器で何をしようとしているのかと不安が過ぎる。自分を縛る何かを燃やすことでカタルシスを得て、この映画も終わりかなと予測を立てる。あたりが暗くなった頃、宮崎あおいが火炎瓶数本に火をつける。仲間の中年男キュウゾウに、相変わらず嬉々とした表情でそれを渡す。キュウゾウはそこそこいいフォームで遠くへ投げる。どこに投げているのかは分からない。やがて宮崎あおいの表情に翳が差す。眉間に皺が寄る。後退りする。喉の奥から声が漏れる。全景が映し出され、燃えているものの正体が分かる。その時の驚きと言ったら、もう、言葉にならん。
この一連のシーンを堪能できただけでも、観た甲斐があった。