筒井康隆『最後の喫煙者―自選ドタバタ傑作集1』

「急流」「問題外科」「最後の喫煙者」「老境のターザン」「こぶ天才」「ヤマザキ」「喪失の日」「平行世界」「万延元年のラグビー」の9編を収録。どれもスピード感があって社会風刺の効いた作品で、とてつもなく面白かった。
9編全部を語ると長くなってしまうので、ここでは表題作の「最後の喫煙者」を取り上げる。嫌煙権運動が盛り上がり喫煙者の肩身が狭くなっていき、終いには喫煙者に対するリンチや差別が跋扈する話。この作品が書かれたのは昭和62年。実際に嫌煙権運動がいつから始まったのか知らないが、筒井先生の先を見通す力はたいしたものだと思う。
この作品で問われているのは喫煙の良し悪しではなく、正義を振りかざして個人の嗜好の問題に一つの価値観を押し付ける人々のタチの悪さであり、大衆が「錦の御旗」に釣られて付和雷同していく様の滑稽さ・恐ろしさである。ここで描かれている状況はまさしく「禁煙ファシズム」と呼ぶに相応しい。
ヤマザキ」のラストシーンに、筒井作品の本質を表わす文章があった。

「そちはきっと、この『説明』を求めておるのであろう。どうじゃ。そうに違いなかろう」秀吉は歯をむき出しにして、にやりと笑った。「だが、よく聞け。あいにく『説明』はないのじゃ。うむ」

ナンセンスは理屈で説明するものじゃない、ってことですね。

最後の喫煙者 自選ドタバタ傑作集1 (新潮文庫)

最後の喫煙者 自選ドタバタ傑作集1 (新潮文庫)