深沢七郎『楢山節考』

徐々にペースが掴めてきたので、短くてもいいから感想は書いていこうと思う。


楢山節考」は第1回中央公論新人賞受賞作で、選考委員の三島由紀夫武田泰淳伊藤整を驚かせた作品。正宗白鳥にいたっては「人生永遠の書」とまで褒め称えてる。
そんな評判をどこかで読み、「これは読まねば」と買ったのが確か4年ほど前。まあ、我が家にはそうやって詰まれた本が大量にあるわけですな。オフ会で「買ってしまうと安心して読まなくなる」という話をしたが、友人と本の話をしていて「それ持ってるよ!読んでないけどさ…」と打ち明けるのは情けないものです。
本書に収録されているのは「楢山節考」の他に「月のアペニン山」「東京のプリンスたち」「白鳥の死」。全体的な印象として、俺は「突き放した感じ」を強烈に受けた。深沢氏は登場人物に愛情を注ぐでもなく、徹底して俯瞰しているように思う。「楢山節考」は姨捨の話で、いくらでも感動を誘うことが出来る題材ではあるが、著者は淡々と筆を進めている。このギャップが評論家諸氏に「一種言いがたさ」(中村光夫)とか「不快な傑作」(三島由紀夫)とか言わせたのだろう。
「白鳥の死」は、深沢氏が慕っていた正宗白鳥が死んだときの話なのだが、そこには悲しさが微塵もない。生に執着しない深沢氏のスタンスが読み取れる。
「東京のプリンスたち」は東京の高校生たちの話なのだが、彼らは学校にもガールフレンドにも執着を持たない。例えば、主人公の一人の正夫がガールフレンドと恋愛映画を見てる場面で…

女を恋するとか、男を恋するとか、面倒臭いことは嫌だった。30分も見ているとアクビが出てきた。自分のことではないので興味がなかった。それに、(愛するなんて、あんな神経衰弱の様な、熱病のようなことは)と思った。重い、深刻なことは気分が悪くなるので嫌だった。

こうした何事にも執着しない態度、無常観ともニヒリズムとも言えそうだが、こうした態度は深沢氏の人生観そのものだったのだろう。今後は、その人生観を探るべく他の著作も読んでいきますわ。最終的には「風流夢譚」を読むつもり。

楢山節考 (新潮文庫)

楢山節考 (新潮文庫)