中田秀夫『仄暗い水の底から』

ホラーにとって最も重要なポイントは「怖いか怖くないか」だと思う。はっきり言えば、この映画を観ていて全く恐怖を感じなかった。見せ場が少なかったし、何よりも先の展開が容易に予測できた。ホラー好きの妹の影響で多くの日本製ホラー映画を観てきたが、本数を重ねれば重ねるほど先行作品との類似点が目に付く。
序盤の離婚調停の場面で、主人公の松原淑美(黒木瞳)がかつて精神科に通院していたことや、幼い頃に夢遊病のように出歩いていたことが明かされる。また、松原淑美は些細なことでヒステリックに反応する。つまり、この映画で描かれる超常現象は現実世界で起こっていることではなく、精神的な病に侵された主人公の体験と解釈できる。いや、そうとしか解釈できない。
霊となって主人公たちを怖がらせる少女・美津子、主人公の娘・郁子、主人公・淑美はみな親の愛情を存分に与えられなかった点で共通しており、美津子と郁子はいずれも淑美の分身と言える。

仄暗い水の底から [DVD]

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