『秘密。 私と私のあいだの十二話』

「表紙の子は誰だ?」と思って調べてたが、分からない。
せっかくだから、読むことにした。
正確には30日ではなく31日に読み終えたのだが、生活リズムが狂って1日の区切りがメチャメチャだから、まあ、大目に見よう。
12人の小説家によるアンソロジー。このようなアンソロジーは、それぞれの作家の特徴がはっきり現れるので、非常に面白い。
裏表紙の説明が分かりやすいだろう。「レコードのA面・B面のように、ひとつのストーリーを2人の別の主人公の視点で綴った短編12編」
A面4ページ、B面4ページの合わせて8ページが1編となっている。
一つの出来事を、視点人物を変えて描写するタイプの小説群。複数の人物の内面に迫れるので、しっかりキャラクターの特色が出るし、「実はこんなことを思っていた」という意外なオチも書きやすいだろう。
大抵はA面が前フリ、B面が種明かしになっている。A面とB面が、表現や構成の点からも対になっていることが多い。
ダ・ヴィンチ』に「日本テレコムSHORT THEATER」として掲載されていた作品群なので、全て電話にまつわる話だ。
1篇1篇を、軽く検討してみる。短編と言うより掌編とでも呼べそうなほど短い話なので、内容に詳しく立ち入らないことにする。
吉田修一「ご不在票-OUT SIDE-」「ご不在票-IN SIDE-」:非常に上手い。荷物を届ける男と荷物を受け取る男。ドア1枚を隔てた皮肉な運命が描かれている。読み終えたあとのザラザラする感じが、いいね。
森絵都「彼女の彼の特別な日」「彼の彼女の特別な日」:前半の女性の描写に比べ、後半の男性の描写が、拙いんじゃないかなあ。いくら純粋で素朴とは言え、ちとねえ…女性の描写が面白かっただけに、残念。
佐藤正午「ニラタマA」「ニラタマB」:いつもの中華の出前のやり取り、そこにふと起こったいつもと違うこと。「ここ」と指摘できないが、全体として好きな感じ。
有栖川有栖「震度四の秘密―男」「震度四の秘密―女」:本格ミステリ作家の本領発揮といった感じ。「驚き」と言う点では、12編中一番。嘘の下手な男と、男の上をいく女。こういうの、好き。
小川洋子「電話アーティストの甥」「電話アーティストの恋人」:「電話アーティスト」という妙な設定、ラストのしんみりする感じが小川洋子らしい。
篠田節子「別荘地の犬A-side」「別荘地の犬B-side」:この程度では驚きもしないし、感動もしない。と、1篇だけ否定的な評価。
唯川恵「<ユキ>」「<ヒロコ>」:とても面白いんだけど、「何かが始まりそうな予感」で終わってる感じが勿体ない。逆に言うと、オチだけいまいち。
堀江敏幸「黒電話A」「黒電話B」:アイディアや展開の面白さで勝負するのではなく、純粋に文章自体で勝負している感じがあった。名詞の前の修飾語が長いのだが、そのことによって読みづらくなるのではなく、文章に勢いが出ている。
北村薫「百合子姫」「怪奇毒吐き女」:笑える。前半のラストで、流れがガラっとわかる。「同じものを二つの視点から描く」という設定を、上手に利用している。
伊坂幸太郎「ライフ システムエンジニア編」「ライフ ミッドフィルダー編」:この人の作品は他に読んだことないが、たぶん長編の方が持ち味が出るのだろう。「男の友情」的な話だが、全然響いてこない。
三浦しをん「お江戸に咲いた灼熱の花」「ダーリンは演技派」:人気役者とその恋人の話。これも笑える。女性はリアルなんだが、男はやはり「ただのアホ」なんだよな…
阿部和重「監視者/私」「被監視者/僕」:監視者が、被監視者の人生に介入する話。阿部ちゃんらしさ全開の作品。カメラや盗聴による監視もそうだし、「アメリカ国防総省の外郭組織である生物化学兵器の防護対策研究所から汚染除去剤の〜〜」なんて部分は特に。